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「女性差別撤廃委員会の日本審査から移民女性の人権保障を考える」を共催しました(2/1)

 国連女性差別撤廃委員会(以下、CEDAW)は、2024年10月17日にジュネーブの国連欧州本部で女性差別撤廃条約の実施状況に関する日本政府報告書審査を行い、10月29日に総括所見を公表しました。CEDAWは、前回審査の2016年以降の法整備や施策を評価する一方で、長年にわたり継続する多くの課題について懸念を表明し、改革や改善するよう繰り返し勧告しています。
 ヒューライツ大阪は、関西で移民の相談・支援に取り組むRINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)とNGO神戸外国人救援ネットと協力して、2月1日に大阪市内で報告会「女性差別撤廃委員会の日本審査から移民女性の人権保障を考える」を開催しました。CEDAWの委員への情報提供のために、「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)からジュネーブに派遣された村西優季さん(NGO神戸外国人救援ネット)と、日本から情報提供に協力した藤本伸樹(ヒューライツ大阪)が報告しました。参加者は29人でした。
 以下、報告の概要です。

村西優季さん(NGO神戸外国人救援ネット)の報告
 NGO神戸外国人救援ネットのスタッフとして、在留資格、労働、生活、教育、DV問題などについて外国人からの相談にのり、支援を行っている。同時に、移住連のメンバーとして、移民女性プロジェクト(部会)に所属しており、運営委員会の委員を務めている。CEDAWによる日本政府報告書審査でジュネーブに派遣されたのは2016年に続き今回が2回目であった。
 日本審査の際に委員への情報提供(ロビイング)を行う目的でジュネーブに向かう多くのNGOの連合体として日本女性差別撤廃NGOネットワーク(JNNC)が2003年に組織されたが、今回もそのネットワークの一員として参加した。JNNC所属の総勢84人に加えて、日弁連から4人、および他の市民団体からの派遣をあわせ、日本から100人を超える人たちが現地で審査を傍聴するとともにロビー活動を行った。
 日本政府代表団は、岡田恵子・内閣府男女共同参画局長を団長に、法務省、外務省、文科省、厚労省、警察庁、子ども家庭庁、宮内庁など関係省庁から30余名で構成されていた。
 審査は、CEDAWと政府代表団との対話(質疑応答)を通して行われるが、審査日の数日前から、NGOによる委員たちへのブリーフィングと呼ばれる情報提供の時間が数回にわたり設けられたことから、事前に送付していた移住連作成のレポートのなかから抜粋した課題を伝えることができた。
 今回、移住連は「ジェンダーに基づく女性に対する暴力」、「人身取引と売買春による搾取」、「妊娠・母性を理由とする差別」、「国籍」、「家事労働者条約(ILO189号)の批准」、「困難を抱える女性支援新法」、「LBT:同性パートナーの在留資格と入管収容問題」、「難民と庇護希望者」、「永住資格の取り消し」の9課題に絞りレポートをまとめた。
 23人の委員のうち、どの委員が日本審査に関わるのか事前にわからなかったので当初は戸惑ったけれど、ブリーフィングを通して、どの委員がどんな課題を担当しているのか徐々にわかってきた。結局、審査で日本政府代表団に質問を投げかけたのは11人の委員で、ネパール出身のバンダナ・ラナ委員が日本担当の責任者として、もっとも積極的に質問を繰り返していた。
 情報提供が奏功し、「DV被害を受けた移民女性の保護と在留資格」、「人身取引」、「技能実習生の妊娠・出産」といった移民に特化した課題に関して重要な懸念と勧告が出された。また、家事労働者条約(ILO第189号)や移住労働者権利条約の締結が促された。
 さらに、「司法への有効なアクセス」、「職場での差別やハラスメントへの対応」、「教育、健康、公的活動への参画の平等なアクセス」などに関して、アイヌ民族、在日コリアン、障害者、被差別部落の女性など他のマイノリティ女性、および移民女性が直面する共通の課題、すなわち「交差する形態の差別」の問題として提示された懸念・勧告が盛り込まれた。
 一方、「国籍」をめぐる課題に関してひとりの委員が政府代表団に質問をしていたが、勧告には反映されなかった。また、「難民・庇護希望者」に関しても勧告は出なかった。
 今後の取り組みとして、盛り込まれた勧告が日本で実施されるよう、移住連女性プロジェクトとして活用していきたい。

藤本伸樹(ヒューライツ大阪)の報告
 ヒューライツ大阪のスタッフとして、国際人権基準を日本に根付かせるために情報発信に努めているが、本日は、移住連の国際人権担当の運営委員として、CEDAWに提出した移住連のレポート作成の際にまとめ役を担うとともに、村西さんの現地ロビー活動のバックアップに関わったという立場から報告する。
 移住連は2024年7月から、課題ごとの担当者を決めてレポート作成に着手し、CEDAWにレポートを送付したのは締切前日の2024年9月8日であった。数日前にやっとのことで仕上げたレポートが制限字数(ネットワーク団体の場合、英文で6,600ワード)を少し超過していたことから、文字数を縮減する作業に手間取ったからだ。
 審査当日の10月17日は、国連からライブ配信される審査のもようを視聴しながら、村西さんとメールやSNSで連絡をとりアドバイスを行った。
 10月29日に公表された総括所見には移民女性にフォーカスした懸念・勧告は3課題とりあげられた。
 一つ目は「女性に対するジェンダーに基づく暴力」の項目で、DV被害を受けた移民女性は「在留資格にかかわらず保護されるべき」であり、DV被害を受けて日本人や永住者である夫のもとから避難している移民女性が、その「正当な理由」を示すことができなければ、在留資格を取り消すという入管法の規定を削除すべきであるという勧告が示された。
 ただ、この2つの課題が凝縮された一文に盛り込まれていることから、残念ながらわかりにくい文脈となっている。
 とはいえ、「在留資格にかかわらず保護されるべき」という勧告は、在留資格の有無だけでなく、在留資格の種類によって政府による対応に差があるという実態の是正を求めていると解釈できる重要な内容である。
 二つ目は「人身取引と売買春による搾取」の項目で、移民に関わり3点ほどの勧告が出されている。とりわけ「労働力の不法取引における非強制的な搾取形態に適切に対処できるよう、特に 『権力の濫用』と『脆弱性』をターゲットとした法規定を改正する」との一節は人身取引対策の国際基準に沿った勧告として注目に値する。また、「労働力の不法取引が依然として大幅に過少報告されていること」とあるが、これは労働搾取を被る多くの技能実習生が人身取引の被害者としてほとんど認定されていないことに注意を促したものだ。
 三つ目は「不利な立場にある女性のグループ」の項目で、「女性技能実習生の妊娠による本国送還や海外における家族単位からの分離などの差別的慣行から女性移民労働者を保護する」と勧告している。技能実習制度のもとでは家族帯同が認められないことから、孤立出産を余儀なくされるといった厳しい現実を問題視している。
 これら三つの懸念・勧告は、「移民」であり「女性」であることゆえに直面している交差性・複合差別の課題に着目した内容である。
 今回のように人権条約機関から日本に勧告が出るたびに、首相をはじめ政府高官は「国連勧告には法的拘束力がない」と繰り返している。しかし、日本国憲法98条2は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定めている。
 日本政府は、「法的拘束力なし」と切り捨てるのではなく、人権条約の履行の指針となる勧告の数々に誠実に耳を傾けるべきではなかろうか。
IMG_0024報告会のもよう.JPG                報告会のもよう

<日本報告書審査の録画> UN Web TV
2024年10月17日(木)午前(日本時間:17:00~20:00)
https://webtv.un.org/en/asset/k11/k1134kvabm
2024年10月17日(木)午後(日本時間:22:00~0:00)
https://webtv.un.org/en/asset/k1n/k1nb3bus4d

<参照>
女性差別撤廃委員会(CEDAW)にNGOレポートを提出(移住連)
https://migrants.jp/news/voice/20240906.html
第9回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(仮訳)外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100762773.pdf
2024年女性差別撤廃委員会の総括所見に盛り込まれた移民女性の人権課題を読む(ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2025/01/2024.html

「女性差別撤廃委員会の日本審査から移民女性の人権保障を考える」
日時:2025年2月1日(土)14:00-16:00
場所:総合生涯学習センター・第3研修室
報告:ジュネーブでの審査を傍聴して  村西優季(NGO神戸外国人救援ネット)
移民女性に関する近年の国連勧告  藤本伸樹(ヒューライツ大阪)
進行:早崎直美(RINK)
主催:RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)
   特定非営利活動法人NGO神戸外国人救援ネット
   ヒューライツ大阪(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)
協力:NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)