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オンラインセミナー「女性の人権から沖縄の米軍基地によるPFAS汚染を考える」を開催しました(2/23)

 国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、2024年10月に女性差別撤廃条約の実施状況に関する日本報告書審査を行い、総括所見を採択しました。そのなかの「健康」の項目で、委員会は「環境省及び国土交通省が、2024年9月までに12,000の水道事業者からの測定値に関する調査・報告を提出するよう要請したにもかかわらず、PFAS(有機フッ素化合物)に関する水道水の安全性に関する最新情報がないこと」を懸念し、「水道水中のPFASの安全レベルに関する報告の最新情報を、次回の報告書で提供すること」と勧告を表明しました。
 がんや甲状腺疾患、赤ちゃんが低体重で出生するなどとの関連が指摘されているPFASによる汚染は全国各地で確認されていますが、なかでも米軍基地が集中する沖縄では、基地由来と考えられる高濃度のPFASが検出され、住民の血液検査では、全国平均を上回る血中濃度の結果が出ています。
 宜野湾市の普天間基地周辺のPFAS汚染問題に取り組む市民グループ「宜野湾ちゅら水会」は、今回のCEDAW審査を前に、PFAS汚染、および戦闘機の騒音や落下事故の危険などの基地被害から母体と胎児、子どもたちを守るために、妊産婦検診にPFAS血中濃度を追加するとともに、妊娠中の高血圧症や低体重児出生の予防策を早急に講じる必要性などについてNGOレポートをまとめ、CEDAWに送付しました。そして、同会のメンバー3人がジュネーブ入りして委員たちに直接現状を訴えました。その結果、上記の勧告が出ました 。
 ヒューライツ大阪は2月23日、同会の3人を報告者にむかえ、オンラインセミナー「女性の人権から沖縄の米軍基地によるPFAS汚染を考える」を開催しました。「宜野湾ちゅら水会」は、普天間基地周辺のPFAS汚染問題に取り組むために2018年に結成された市民団体です。

 事務局長の照屋正史さんは、普天間基地の消火訓練場から普天間第二小学校にPFASを含む泡消火剤などの汚染水が流入していることをはじめ、沖縄における長年にわたるPFAS汚染の経緯と現状を報告しました。
 2015年に日米地位協定の環境補足協定が締結され、基地で汚染事故があった場合、立入調査できることになったものの、2020年に起きた普天間飛行場における泡消火剤流出事故の際、米軍の指示・許可なくしてはサンプリングもできなかったといいます。また、基地内立入調査に関する日米合同委員会の議事録を外務省に開示請求しても、不開示としたり、黒塗りで読むことができない状況が続いているといいます。
 そうしたなか、最新情報として、沖縄県の「汚染源調査に係る専門家会議」が2月4日、普天間飛行場を汚染源と特定した、と照屋さんは報告しました。
 一方、米軍の横須賀基地や岩国基地周辺の海水から高濃度のPFASが検出されています。沖縄においても、海洋汚染について今後問題になってくるのではないか、と照屋さんは危惧しています。

 代表の町田直美さんは、宜野湾ちゅら水会の活動の概要を報告しました。2016年に北谷浄水場でPFAS汚染が見つかり、嘉手納基地由来の泡消化剤が原因である可能性が高いと沖縄県が発表し、宜野湾市の湧き水も普天間基地に汚染されていることが判明したといいます。基地に隣接する畑でオアシスのように広がっていた特産の田芋が汚染されているとわかり、どうにかしたい思いから会を立ち上げたそうです。
 普天間第二小学校の運動場に、ずっと以前からその200メートル上方にある基地の消火訓練施設から流れ出る水が流入していることを知り、「子どもたちが危ない」ということで調査を実施した、と町田さんは述べました。土壌から検出されたPFOSは、米基準値の29倍もの高い結果でした。
 宜野湾ちゅら水会は、県や市などに対応を求めて要請活動を続ける一方で、地元の各公民館をまわり市民への情報提供を実施。また、PFAS問題を周知するために、毎週土曜日には市役所前でスタンディングを行ったり、声を上げられない人たちや子どもたちの考えや気持ちを集めようと街頭などでアンケートを行っています。
 そうしたなか、国内法の限界を痛感しており、2022年頃から国際基準による見解を求めて国連機関にも働きかけるようになった、と町田さんは述べました。

 同会のメンバーで、琉球大学修士課程のまつだかなこさんは、沖縄(琉球)の「先住民族」「女性」であることにより直面する複合差別の視点から女性差別撤廃委員会(CEDAW)の日本報告書審査に参加したことなどについて報告しました。
 まつださんは、女性差別撤廃委員会の審査に先立つ2024年7月にジュネーブの国連本部で開かれた「先住民族の権利に関する専門家機構」(EMRIP)の年次会合に参加し、PFASによって飲み水が汚染され、健康被害が深刻であると述べ、「環境レイシズム」は先住民族であることに加え、女性や子どもなど、社会的・文化的に不利に置かれやすい立場の人々に被害のしわ寄せが起こっていると報告しました。
 宜野湾ちゅら水会が女性差別撤廃委員会に提出したレポートでは、PFAS汚染について、沖縄(琉球)では、複合的な差別構造によって、女性の妊娠・出産に伴う安全性に関する緊急で深刻な状況が起きている、と訴えました。
 審査では、オーストラリア出身の委員が「PFASは妊婦にとって大きなリスクである」と指摘し、日本政府の施策を質問したものの、日本政府代表は健康被害との因果関係を認めないといった見解を示しました。
 まつださんは、委員会から勧告が出たことは成果であるととらえ、PFAS問題は環境問題だけでなく、性と生殖に関する権利や、安全に生きる権利、そして先住民族や女性、子ども、障害者などマイノリティの権利とも関連しているととらえています。
 宜野湾ちゅら水会は2月4日~5日に東京に行き、関係6省庁に対応を要請しました。
スクリーンショット 2025-03-06 134722.png向かって左から、まつだかなこさん、照屋正史さん、町田直美さん

スクリーンショット 2025-03-05 163219.png

セミナーの録画(約90分)はYouTubeで公開しています。
<セミナーの録画>
https://www.youtube.com/watch?v=CUojJ13Lht8
25 2 23 女性の人権から沖縄の米軍基地によるPFAS汚染を考える

<参照>
https://darkwater.okinawa/
有機フッ素化合物(PFAS)汚染から市民の生命を守る連絡会
沖縄水道水PFAS汚染
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2024/07/78712.html
「先住民族の権利に関する専門家機構」年次会合が開催される(2024 7/12)ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ
<関連企画>
https://www.hurights.or.jp/japan/eventreport/2024/10/pfas928.html
オンラインセミナー「ビジネスと人権の視点からPFAS汚染問題を考える」を開催しました(2024年9/28)
このセミナーの録画(約2時間)https://youtu.be/FD1nsasPGqs