国際社会には、世界政府も世界議会も世界警察も存在しません。したがって、国家が自ら守ることを約束した人権条約を、実は国内で実施せずに私の人権を侵害し、その結果条約違反をおかしたとしても、そのことを直接の理由として国家に罰則や制裁を加えることができる権限はどこにもありません。
その意味では国際社会のルールは国内法とは大きく異なります。
ただし、人権条約には政府報告書の提出・審査や個人通報制度といった実施措置が定められていて、私たちもそれを行う委員会に情報を提供することができます。
国家の側はたいてい、条約の国内的な実現のためにどんなにがんばっているかということを説明した報告書を提出しますが、その審査の際には現実にどのようなことが起こっているのかについての情報は重視され、委員会は政府に真実に関する回答を迫ります。
このやり取りとそれに基づく委員会の最終見解はすべて公開で直ちに世界中に配信されるわけですから、良識ある政府であれば、次の報告書審査でまた指摘されるような恥ずかしいことがないように、条約違反の人権侵害行為を改めようと考えるでしょう。
私たちにとっても国連の条約機関の指摘は、政府に改善を迫る大きな武器となります。
個人通報を認めている国家の場合ですと、なおさら、個別事例について詳細な検討が加えられて条約違反かそうでないかのレッテルがはられるわけですから、国家へのより大きな圧力となります。
(中井伊都子)