せっかくさまざまな種類の人権とその内容を定めた人権条約も、締約国によって守られなければ何の意味もありません。国家がその国内で人権条約を正しく守っているかどうかを監視する仕組みが、条約の実施措置です。国連が作成したおもな人権条約には、その実施措置が決められていて、そのために中立な立場で行動する専門家からなる委員会が設置されます。この委員会のことを条約の実施機関または監視機関といいます。
実施措置のうち、国家がもっとも抵抗なく受け入れられるのが国家(または政府)報告制度で、条約を守るためにどのようなことを国内で行っているかを定期的に報告書にして提出する制度です。個人通報制度は、被害者である個人が委員会に人権侵害の状況を報告して審査してもらう制度です。ある国が条約を守っていないことを別の国が通報する国家通報制度というのもありますが、この制度は外交上の配慮からあまり活用されることはありません。また信頼できる情報源からの情報に基づいて実施機関が現地調査などを行う調査制度も実施措置の一つです。
(中井伊都子)