ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします
レッスン玉手箱
人権ってなに?
阿久澤麻理子
グループでの共同作業を通じて、人権(人間の権利)について具体的に考える。そうした合意形成の話合いを経て作られた「人権の定義」が、世界人権宣言をはじめとする人権の共通の基準に照らして検証するとともに人権を実現する責務がどこにあるかを学ぶ。また、その合意形成のプロセス自体のあり方をふりかえりながら、民主主義についても考える契機とする。
テーマ |
「人権」の具体的な権利とその名宛人
合意形成のプロセスと民主主義 |
レベル |
成人、大学生、高校生 |
教科 |
学校で行う場合は、総合的な学習の時間(人権、福祉)、社会科など |
どの人権に関わる内容か |
障害者の権利(これまでのすべての権利に関わる。社会権と自由権で分けられない。) |
所要時間 |
2時間~4時間 |
I.目標
-
人権とは何かを具体的に考えると同時に、合意を形成しながら人権が法に定式化されていくプロセスを経験する。
-
人権を実現するためのメカニズムとしての民主主義、人権の名宛人について考える。
-
合意形成のプロセスに影響を与える、「パワー」の作用を、ジェンダー、年齢、マイノリティ性などから考える。
II.準備するもの
-
A4用紙(各参加者に2-3枚)
-
もぞう紙(グループに1枚)
-
マジックペン
-
大きめの封筒(A4サイズが入る程度)
III.進め方
-
グループ分けをする。
・ 参加者人数に応じて4人または8人で1グループとなるように参加者を分けておく。
・ 上記とは別に、各グループに1人、観察兼記録者(役割は後述)を立てると、後から活動全体の評価ができる。
-
グループごとに着席し、グループ内で自己紹介などをしてお互いに知り合い、話し合いやすい雰囲気を作っておく。
-
全体のファシリテーター(1人)から、「人権とは何か」、各参加者が思う定義をA4の用紙に書くように伝える。その際、まずは誰とも話をせずに、自分自身の思う定義を1人で書いてもらう。
-
ファシリテーターは、参加者の何人かを選び(ジェンダー、年齢、そのほかの属性に配慮しつつ)、それぞれがどのような定義を記したか、その場で読み上げてもらい、全体に紹介する。
-
次に、ファシリテーターは参加者に、「隣の人と2人1組となって、各人の書いた定義を紹介し合い、自分の考えを相手に伝えた上で、2人で了解し合える、『2人にとっての人権の定義』を新しい紙に書くように伝える。
-
次に、2ペアが一組(4人)になり、各ペアの書いた定義を紹介し合い、なぜそうした定義を書いたのかを相互に説明しあう。その上で、今度は4人で了解し合える、『4人にとっての人権の定義』を新しい紙に書いてもらう。(グループが8人の場合は、次に8人で合意のできる定義を書いてもらうところまで進める)。
-
上記のプロセスが進む間、ファシリテーターは、各グループの間をまわりながら、議論のプロセスに介入する。
● たいていの場合、多くの人やグループが「人間が生まれながらに持っている定義」「人間の権利」といった人権の定義を最初の段階で は書く。しかし、一緒に議論している者どうしが、何を「人間の権利」だと思っているか、その中身が一致しているとは限らない。そこで、こうした定義をグループで書いていた場合には、「具体的な『人間の権利』が何か、2または4人で考えていることに違いがないかを話し合ってもらい、合意できる、具体的な権利のリストを書きだしてみるように勧める。その際、できるだけ、参加者が日常の中で自分にとって必要だと感じている権利から、あげてもらうようにする。
● グループの中には、抽象的定義でとどめておこうとする者と、できるだけ具体的に権利のリストを書きだして行こうとする者とがいる。こ うした場合、どちらの方針をグループとしては取ろうとするのか、話し合い、方針を決めるよう勧める。後から全体の場で、グループとしてなぜ、そのような方針を取ったのかを発表してもらうとよい。
-
グループ全体で合意できる人権の定義、および人権のリストができあがったら、それを大きな模造紙に書き出してもらい、会場の壁に張り出す。時間をとって、全員が、各グループの書いた模造紙を見て回るようにする。
-
全体会で、グループごとに
・ なぜ、そのような人権の定義を作ったのか
・ 何が議論になり、合意形成が難しかった点は何か
・ 抽象的な定義にとどめておこうとしたか/具体的な権利のリストを作ろうとしたか、グループではいずれの方針を取ることにしたか、また、その理由
を発表してもらう。
-
グループが発表するごとに、そこに挙がった権利の種類に、何らかの「偏り」があるか(自由権、社会権など)、「日本国憲法」「世界人権宣言」と比べた場合、そこに記されていない権利があるかどうか、などをファシリテーターが介入しつつ、確かめていく。
● 人権を抽象的には定義できても、具体的な権利のリストを合意を形成しながら作りあげる難しさが感じられる。
● グループの定義やリストを「世界人権宣言」と比べてみると、自分たちの定義・リストの「偏り」が明らかになり、私たちが意識していない権利が何か、またそれはなぜなのかを考えるきっかけができる。
-
最後に、グループごとに、大きな封筒をファシリテーターから配り、「各グループで作成した人権の定義・リストを折りたたんで封筒に入れ、そこに書かれた人権を実現する一義的責任があると思う人に、その封筒を送付するとしたら、誰に送るのか、グループとして適切だと思う人の名前と住所を封筒に記してください」と指示する。
● 人権の名宛人(人権を実現する一義的責務を有する)は、「国家」であるが、グループごとの宛先の中には、「つれあい」や「「職場の上司」などといった私的な関係にある名宛人も登場することが多い。その場合、人権を実現するメカニズムについて、参加者とともに考えるきっかけとなる。
【観察兼記録者】
-
グループごとに、観察兼記録者を1人たてた場合には、A3の用紙(画板などに貼っておくと記録しやすい)と筆記用具を持ち、各グループの横に立ち記録を取ってもらう。
-
記録は、4ないし8人の、全体での話し合いの場面でとってもらうとよい。
-
記録の仕方は下記の通り、着席の配置どおりに参加者の名前を記した後、発言がある度に、それが誰の誰に向かっての発言であるかがわかるように、矢印で記録をしてもらう。たとえば下記であれば、なぜXさんが発言に加われなかったのか、Aさんになぜ多くの発言機会があったのか、などを後から検証することができる。