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「障害」のある人の権利を知ろう(人権教育ワークショップ)
松波めぐみ
障害者は長い間、「大変、かわいそう」と見なされ、医療や社会福祉によって救済される対象だと考えられてきた。しかし障害のある人たちは自分たちの目で社会を問い直し、「社会こそが『障害』をつくっている」と主張して、人権を求める運動を続け、2006年12月にようやく「障害者権利条約」を国連総会で採択させた(日本は2014年1月に批准)。この条約は、とても大切な考え方と内容を含んでおり、障害のある人もない人も積極的に学んでいく必要がある。
テーマ |
障害のある人の「権利」を知ろう |
レベル |
高校生以上(大学生~一般も) |
教科 |
学校で行う場合は、総合的な学習の時間(人権、福祉)、社会科など |
どの人権に関わる内容か |
障害者の権利(これまでのすべての権利に関わる。社会権と自由権で分けられない。) |
所要時間 |
2時間程度 |
I.目標
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障害者がおかれている状況を、「人権、権利」の視点から理解するための土台を得る。
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「障害者権利条約」の概要と意義を知る。
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障害者が平等に社会参加するためには社会の様々なバリアを撤廃しなければならない。条約は「変えないといけないところ」の一覧表でもあることを理解する。
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子どもには休息・余暇に対する権利があることを述べる。
II.準備するもの
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障害者権利条約についての冊子(JDF=日本障害フォーラムが作成したもの、福祉新聞社の「障害者権利条約で社会を変えたい」、手をつなぐ育成会の「わかりやすい障害者の権利条約」など。)
条約の本文は、厚生労働省などのホームページで読むことができる。
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障害者のおかれている現実を知るドキュメンタリー・ビデオか、障害者による手記(写真つき)。
(できれば子どもの時の体験、入所施設や病院、地域での差別事例などを含むもの。複数の障害種別をもつ人が登場するとよい。例:車いすの人、聴覚障害の人、知的障害の人)
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千葉県で障害者差別禁止条例を作成したときに県民から寄せられた八百件以上の差別事例
(千葉県のホームページで閲覧可能)
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もぞう紙、筆記具など
III.進め方
A.導入
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ファシリテーター(または教師)から参加者に、身近に障害のある人がいるかどうか、「障害者問題」を身近に感じるかどうか、軽く質問する。 予想:ほんの数人が手を挙げる
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具体的に障害をもつ人の生活をイメージするために、ビデオを見る。(できなければ手記を読む。)
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小グループに分かれ、「疑問に思ったこと、印象に残った場面」などを出し合って、模造紙に書く。
予想される答え:あんな重い障害があっても子育てできるのか、生活をどうまかなっているのか、あの不動産屋の対応はひどい、入所施設は今もあんな待遇なのか?…等
(グループで話し合うことで、自分では気づかなかったことに気づいたり、人によって意見や感じ方が異なることを実感する。ファシリテーターは「どうしても訂正しておいたほうがよい誤解」等があった場合のみ介入する。) この作業を通して、後の話し合いの土台をつくる。
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ファシリテーターは、「このビデオ(手記)に出てきた人たちは、障害をもっていることで、障害のない人とは違う扱いを受けた場面があったでしょうか?」と問いかける。
予想される答え:障害を理由に近くの学校に通えなかったこと、不動産屋に拒否されたところ…)
→そこに、障害者の権利を考えるヒントがあります」と言う。
B.発展 (*2時間に分ける場合は、2時間目)
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ファシリテーターは、「障害者権利条約の条文を、わかりやすく一覧にしたもの」を配布した後、そもそも条約がどのようにしてできたのかを、簡単に解説する。
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「われわれ抜きに、われわれのことを何も決めるな!」をスローガンに、障害者が多数参加して条約をつくりあげたことを伝える。(逆にいうと、これまでは障害者の参加を抜きに、条約や法律がつくられてきた。)
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いくつか、条文を読んで説明する。たとえば「地域社会の中で暮らす権利」や、「交通機関にアクセスする権利」を、「あなた(参加者)はもっていますか?」と問いかける。
→障害のない人はあたりまえ過ぎて「権利」とも思わなかったこと。だが実際に、障害者が人間らしく生きていくためには不可欠のことがらなので、「権利条約」の中で定められたことを伝える。つまり、「障害者の権利」は、「障害者だけに与えられた権利」(特権)ではない。社会参加の条件を平等にするために策定された。
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先ほどビデオで見た(または手記で読んだ)事例に戻る。「この○○さんは、どの権利を侵害されてきたでしょうか?」と問いかける。→グループで話し合いをさせる。
→全体で発表し、共有する。
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時間があれば、「千葉県で県民から寄せられた八百の差別事例」を配布し、それがどの条文に関係するものであるかをグループの皆で考える。
C.まとめ
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障害者権利条約のたくさんある条文のうち、「日本では完全に守られているもの」は一つもない。具体的に権利を侵害されている人がいるからこそ、条約はできた。条約に批准すれば国内の法律ができ、状況を変えていくことができる。
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条約を今後どれぐらい生かしていけるかどうかは、皆さんが「知って、行動すること」にかかっているというメッセージを伝える。
Ⅳ.留意すること
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対象が高校生か、大学生か、社会人かによって、歴史の話や「条約」の性格じたいにどれぐらい踏み込むかは判断する。たとえば高校生であれば、「なぜ障害者は悔しい思いをするのか、それは社会に原因があったのだ」といった気づきの部分を大事にするとよい。
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学校で行う場合、障害のある生徒がいれば、積極的な役割をもてるように配慮する。(逆に、「誰々さんの問題」というのではなく、一人ひとりが考えるべき問題だということも強調する。
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学校以外で行う場合、「参加者のなかに障害や疾患をもつ人がいるかもしれない」ということを念頭におく。「同じ」でなければ排除されるという空気がある日本社会では、外見ではわかりにくい障害や疾患をもつ人が、まわりの人に言えずに隠していることがある。「障害があることで差別されてはならないという条約ができたこと、必要な支援は堂々と受けてよい」というメッセージを授業で伝えることで、「言いにくいこと」を言えるような雰囲気をつくることも重要な人権教育である。
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これまでの教育やメディアでは、「障害者はこんな苦労をしている、でも前向きにがんばっている。(だから差別しないように)」というメッセージを発する傾向があったが、それでは障害者の権利を考えたことにはならない。障害者の「苦労」は、社会に原因があるのだということをしっかり認識させるようにする。社会を変えることは、あらゆるレベルで必要であり、だからこそ「自分にもできることがある」と希望をもたせられるようにしたい。