交差性差別や複合差別という言葉を聞かれたことはありますか?
人はそれぞれ、性、出身、国籍、人種・民族、性的指向、障害の有無など、さまざまな違いがあり、さまざまなアイデンティティを持って生きています。アイデンティティの中には、社会的に少数派であったり、差別を被るなど不利な立場に置かれがちなマイノリティ性を有するものがあります。
そして、一人の人が、複数のマイノリティ性を生きる場合もあります。民族的マイノリティの女性、性的マイノリティの子ども、障害のある被差別部落出身者などがそれにあたります。
たとえば、在日コリアン女性は、ヘイトスピーチの被害を受けたり、賃貸住宅を借りにくいという民族に基づく差別に遭うだけではなく、家庭では仕事の有無にかかわらず、女性の役割だからと言われ、家事・育児・介護を過重に担うことになったり、また職場や地域社会では女性であることで軽んじられ、意見を聞いてもらえなかったりします。在日コリアン女性に対する差別は、「在日コリアンであることによる差別」と「女性であることによる差別」の両方が掛け算のように複雑に絡み合っていて、その被害もより複雑で深刻になります。このような状況を交差性・複合差別といいます。
しかし、これまで性、国籍、人種、民族、障害の有無などそれぞれの差別は別々に考えられ、取り組まれてきたため、複数のアイデンティティが重なり合うことによる差別や不平等を受ける人びとの困難がなかなか理解されませんでした。国連では、1990年代以降、性差別の問題を人権保障のメインストリームに位置づけようとする取り組みが進みましたが、この流れの中で、複数のアイデンティティが交差することによる差別や不平等の問題が当事者を中心に提起されるようになりました。そして、交差性・複合差別を考慮することなしにはジェンダー課題の解決はありえないということが共通の理解となりました。近年の人種差別、障害者、ジェンダーなどにかかわる国際的な文書では、交差性・複合差別の問題が必ずと言っていいほど言及されるようになっています。社会にある差別を別々に切り分けて理解し分析しようとする視点からは、複合的に存在する社会の障壁と、それらの複雑な影響や不平等をなくすことも不可能だからです。
交差性差別と複合差別について、学術的に厳密な定義と使い分けがされることもありますが、このサイトでは特に必要がある場合を除いて両者の使い分けはしません。
日本でも部落、在日コリアン、アイヌ、沖縄、障害女性たちなど当事者によって交差性・複合差別に関する問題が提起されてきました。ヒューライツ大阪の「交差性・複合差別」サイトでは、この問題に関する当事者の声、ヒューライツ大阪の事業、そして国際社会の動きなどを紹介し、人権課題の解決には交差性・複合差別の理解が必要不可欠であることを伝えていきたいと思います。