ヒューライツ大阪は、5月16日にRINK、反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)、コリアNGOセンター、神戸外国人救援ネットと協力し、徳島大学の樋口直人さんを報告者に招き、講演会「世界に問われる日本的人種差別~『ジャパニーズオンリー』の背景」を共催しました。約70名が参加しました。
樋口さんは、在日特権を許さない市民の会(在特会)をはじめとする排外主義運動の組織に関わる34人にインタビューを行い、社会運動論、極右研究、国際関係論などに依拠しつつ排外主義運動を分析した書籍『日本型排外主義‐在特会、外国人参政権、東アジア地政学』(名古屋大学出版会、2014年2月)を著しています。樋口さんの報告概要は以下の通りです。
報告のポイントは、不安や不満をもった、特に下層の人がうっぷん晴らしのために排外主義的なデモなどをしているという考え方があるがそれは違う。また、在特会に低所得の非正規雇用の若者が多いという理由から排外主義が噴出したというのではなく、歴史の問題、つまり日本が戦争責任について先延ばしにしているために噴出したと考えるべきであるということだ。
まず、不安から排外主義という因果関係は、かなり疑わしいことが社会運動研究ではいわれてきている。①不安はどの社会にも一定程度存在し、不安が高まる時期に運動が多く発生するという根拠はない。したがって、「格差拡大」「非正規雇用の増大」といった不安の高まりを原因に帰する説明には無理がある。②不安や不満がまったくない人などは存在せず、運動参加者から不安を読み取るのは簡単だが、それは占い師の説明である。③不安にかられた人は、排外主義活動に積極的に関わる余裕はない。④不安が高まる時期ではなく、組織的基盤が整う時期に運動は発生する。⑤不安が一定の役割を果たしているものの、運動組織の働きかけにより不安が作り出されるものである。
つまり、街頭での激しいヘイトスピーチは、「病理的な人の病理的な行動」という見方では解明できない。病理的でない人たちが病理的な行動に至るのである。
排外主義運動への動員過程
排外主義活動家の背景は政治的に保守的な人が多く、自民党に投票したり、左翼的な考えがきらいな人たちである。運動の中心的な担い手である活動家層と周辺的な参加者には一定の階層差がある。概して、前者は後者より学歴も地位も高い。
では、なぜ保守層が愛国心を暴発させるのか、何が憎悪を生み出すのだろうか。インタビューをしたなかでは、外国人との接点を持たなかった人が過半数。接点があったとしても、排外主義的な意識の形成には影響がないとする人が圧倒的に多い。直接的な経験によらずして排外主義者になるのはなぜか。その入り口として、「近隣諸国」と「歴史修正主義」がある。その両者により培養された「愛国心」が掻き立てられたのが排外主義であり、日本の排外主義は歴史修正主義の一部であるいう側面を強く持つのだ。
そして、街頭に出ていくきっかけは、インターネットというインフラが整備されていることにある。インターネットがなければ排外主義的な言説は急速に広まらなかったし、動画サイトがなければ排外主義運動が急速に拡大することもなかっただろう。友人に誘われてというケースは少ない。インターネットが左派の市民運動では考えられない拡大をもたらしたのだ。
戦後日本の在日コリアン政策と排外主義
日本政府は戦後、国内の課題として、つまり日本に住む住民として在日コリアン政策を考えたことはなく、日韓・日朝関係と在日コリアンといった三者関係でしかとらえてこなかった。この三者関係における「朝鮮民族の祖国」に対する敵意が「ナショナル・マイノリティ」(在日コリアン)への敵意=排外主義へと転換されるのである。日本型排外主義とは、朝鮮半島をはじめ近隣諸国との関係により規定される外国人排斥の動きである。