2014年11月5日、韓国の「未婚母」の現状と支援政策について、韓国未婚母家族協会の代表の睦京和(モク・キョンファ)さんをゲストに招いて、学習会を開催しました。モクさんの大阪訪問は、神戸学院大学の文科省科研費「ひとり親家族にみる社会的排除、複合差別、および、社会的支援に関する日韓の比較研究」(研究代表 神原文子教授)の一環として招聘されたもので、ヒューライツ大阪では朴君愛職員がこの研究プロジェクトの業務協力を担当しています。
モクさんが代表を務める韓国未婚母協会は、2010年に結成され、現在は約230名の会員がいますが、その7割が未婚母当事者です。モクさんをはじめ結成当初にかかわった未婚母たちは、「まだ早い」「どうせ長続きしない」という反対の声が大きい中で組織を立ち上げました。未婚母家族協会の推計では、18歳未満の子どもを育てる韓国の未婚母は2013年度で35,809名とされています。実際には年齢も多様で、2009年の実態調査の結果を見ると、20代前半が40%近くを占め、30代以上も15%いました。
しかし儒教的な倫理が強い韓国社会で、女性が婚姻せずに子どもを産み育てると、厳しい差別と偏見にさらされます。未婚母数についての国の正式な統計がなく、推計でしか把握できないのもその表れといえます(国による5年毎の人口調査において、次回の2015年実施より、「未婚」にチェックした人に子どもの有無を聞く項目ができるように変更されたとのこと)。モクさんは、未婚母は、家族との断絶、職場との断絶(その結果のキャリア断絶)、学校教育からの断絶という3つの断絶に直面することが多く、だからこそ未婚母の支援が必要だと説明しました。
これまでは、未婚母たちはまず妊娠中絶するか出産するかの選択を迫られ、出産すると養子―特に海外養子に送りだされることが多かったのです。そして近年の子どもの人権擁護を求める韓国の国内外の批判の声や未婚母たちの立ち上がりによって、ここにきて韓国の法律や制度が改善されつつあります。一例をあげると2012年の養子特例法改正と2013年の民法の改正で、養子手続きは家庭裁判所の許可が必要となりました。未婚母を受け入れる福祉施設については、海外養子あっせん機関は2015年7月から設置・運営ができなくなりました。
しかしモクさんは、現状を見るかぎり、政府の支援策は、未婚母自らが子どもを育てようとすることを応援していないといいます。例えば、現在、未婚母に子どもが満12歳まで支給される政府による福祉給付としての養育費は、所得制限があるし、母親の年齢(24歳以上と24歳未満)によっても金額が違います。一方、養父母は、所得に関係なく満18歳まで支給され、24歳以上の未婚母より支給額が多いのです。モクさんは、同じ未婚母から生まれても育てる親の立場で支援に差をつけることは問題であるとしています。ましてや多くの未婚母は、前述した3つの断絶により、経済的な困難の中で子育てをしているのです。
多くの課題に直面しつつも未婚母家族協会が進めている様々なプロジェクトも紹介されました。当事者への情報提供、悩みの相談、職業教育や金融教育、自助会、一時的保護施設の運営、そして社会の意識を変えるためのヒューマン・ライブラリーなど活動は多岐にわたり、当事者のオンマ(お母さん)たちをエンパワーしています。その一番の支援者は、かつて海外に養子に送られ、成人して韓国に戻ってきた人たちのグループです。
(オンマたちが、会員の子どもが描いた絵をプリントしたトートバックを作って活動資金にしている)
日本では「未婚のシングルマザー」という当事者のネットワーク組織はないようです。今回のモクさんのいくつかの講演を通じて、日本の未婚のシングルマザー当事者が参加し自身の経験や思いを語りました。そうした経験を分かち合うなかで、未婚母を含めた日韓のシングルマザーの当事者団体の相互交流を実現できればという次の企画も持ちあがっています。
参考:「違いはあっても差別のない社会」をめざして - 韓国未婚母家族協会のオンマ(お母さん)たちの奮闘(国際人権ひろば No.115 2014年05月発行
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2014/05/post-245.html)