2014年12月25日から28日、ヒューライツ大阪の朴君愛職員が韓国ソウルに調査訪問に行ってきました(※)。主な訪問先は、ソウル市女性家族政策チーム、「韓国ひとり親連合」事務所、グンポ(軍浦)女性民友会が運営するグループホーム、未婚母子施設「トゥリホーム」です。それぞれに貴重な話を聞きましたが、韓国ひとり親連合でのインタビューを中心に簡単に報告します。韓国では、ひとり親世帯が全世帯の約1割を占める一方、少子化が急速に進む趨勢にあります。
ソウル女性プラザにある韓国ひとり親連合の事務所で、共同代表のチョン・ヨンスンさんと「ソウルひとり親会」代表のシム・ミョンオクさんに話を聞きました。韓国ひとり親連合は、2014年に結成10周年を迎えました。2004年発足当時の名称は、「ひとり親支援団体ネットワーク」でした。5年を経過したとき、社会の変化が見えずに活動メンバーたちが悩み、当事者が中心になる組織にしていこうと方針を変更しました。現在、韓国ひとり親連合には、各地域で活動している11団体が参加し、各団体所属の会員数を併せると約1,000名になり、その9割が当事者です。韓国ひとり親連合自体は、ネットワーク組織なので、当事者と直接かかわる活動は、各加盟団体が行います。会では、情報提供や自助グループのサポート、社会の認識改善事業、政策提言活動、研修・トレーニングなどの活動をしています。
↑ 韓国ひとり親連合の事務所でインタビューに答えるチョン代表(中央)
2014年は活動に関わって2つの大きな出来事がありました。一つは、「養育費履行確保及び支援に関する法律」が2014年2月に韓国の国会で成立したことです。2012年に韓国政府が実施したひとり親家族の実態調査によると、ひとり親家族(母子世帯63.1%、父子家庭36.8%)の83%が元配偶者からまったく養育費を受け取っていないという結果が出ました(日本の母子世帯では60.7%-2011年厚生労働省調査)。こうした現状を踏まえ、当事者団体などは、国に対して必要な制度を作るように要求していました。関連の法案は何度も国会に上程されましたが、この度、法律が成立し、2015年3月に施行されます。法律に基づき「養育費履行管理院」が女性家族部(省)の傘下に設置されます。申請すれば、「管理院」で相談はもちろん、養育していない側の所在把握、財産・所得調査、あるいは養育費確保のための代理訴訟などが可能になります。しかし、チョン事務局長は、自分たちが要望した「国による養育費先払い」はこの法律にはほとんど盛り込まれていないと失望感を示しました。部分的には「緊急支援が必要な場合、最長9か月」国が支援とありますが、緊急支援を受けられる条件が難しく、支援額も多くないといいます。
↑ 韓国ひとり親連合の案内パンフには、アクティブな活動の写真が掲載されている。
もう一つの問題は、「関心兵士」の制度についてです。韓国は徴兵制度がありますが、軍隊で適応が困難な兵士を保護、管理するという趣旨で、ABCの3段階で「関心兵士」が分類されています。2014年に軍隊内で兵士による銃乱射事件などいくつか問題が起きたことに関連して、ひとり親の子どもが入隊すると無条件に「B」ランクになることがはじめてわかったそうです。この制度については、ひとり親の子どもが対象であるという点のみならず、様々な問題が指摘されています。韓国ひとり親連合も他の市民団体と連携して、制度の是正を求める一人デモや記者会見などを行いました。
また、シム・ミョンオクさんが代表を務めている「ソウルひとり親会」は、韓国ひとり親連合に加盟している当事者組織で会員は80名です。二人は、家族の生活を背負っているとひとり親の当事者組織ゆえに、活動費調達や会員の活動参加が難しいと訴えながらも自分たちの未来や政治に対して熱く語っていました。日本の当事者団体との交流をぜひ近い将来実現したいとのことです。
※平成26年度文科省科研費「ひとり親家族にみる社会的排除、複合差別、および、社会的支援に関する日韓の比較研究」(課題番号 26285126研究代表 神原文子・神戸学院大学教授)の一環。ヒューライツ大阪はこの研究プロジェクトに業務協力をしています。
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