人種差別撤廃NGOネットワークは10月3日、ヘイトスピーチをなくしていくために取り組んでいる弁護士、研究者、NGO活動家を報告者に招いて、セミナー「ヘイトスピーチと私たちの町」を大阪市内で開催しました。このセミナーは、人種差別撤廃条約への日本加入20周年にちなんで2015年に企画している連続セミナーの第3回目にあたるものです。参加者は90名でした。
弁護士の師岡康子さんは、民主党、社民党などの野党議員が共同で2015年5月に参議院に提出した「人種差別撤廃施策推進法案」(人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案)の審議の推移をはじめ、ヘイトスピーチの規制に関する最近の議論の論点を報告しました。また、地域における対策と関連して、東京弁護士会が9月に発表した「地方公共団体に対して人種差別を目的とする公共施設の利用許可申請に対する適切な措置を講ずることを求める意見書」の意義を提示しました。
さらに、インターネット上にヘイトスピーチが掲載されても、被害者自身が削除要請することなどが困難であるという実情を受けて、法務局が助言や被害回復を図るための支援に関する人権相談窓口を設けていることを紹介し、それを活用することを提唱しました。
龍谷大学教授の金尚均さんは、京都府と京都市に対して「ヘイトスピーチを許さない」という宣言を採択することを要請するとともに、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別行為を規制する条例制定を求める市民の取り組みを紹介しました。これは、2009年から2010年にかけて在特会会員によって行われた京都朝鮮学校襲撃事件に対して、人種差別撤廃条約上の「人種差別にあたる」として2014年12月に最高裁が高額の損害賠償を認めた判決後も京都市内の街頭でヘイトスピーチが繰り返されている事態を受けた取り組みです。
また、金さんは、在特会会員による徳島県教職員組合の事務所への乱入事件をめぐる高松高裁での控訴審に関する報告を行いました。2010年に起きたこの事件について、徳島地裁は、行為の違法性を認めたものの、「人種差別に基づく行為」とは認めなかったことから、徳島教組が控訴しています。
多民族共生人権教育センターの文公輝さんは、同センターが中心になって実施した大阪市生野区在住・在勤の在日コリアン100名を対象とした「ヘイトスピーチ被害の実態調査」の結果を報告するとともに、生野区において、多くの在日コリアンの子どもたちもヘイトスピーチに遭遇しており、不安感や心に深い傷を負うなどの被害の実態を述べました。
また、大阪市会において6月に継続審議となっていた「大阪市ヘイトスピーチへの対策に関する条例案」が10月に審議されることから、条例制定を働きかけるために大阪市会の各党議員団と懇談したという取り組みを紹介するとともに、大阪市内外の市民が大阪市会議員に対して、全国に先駆けた条例を制定するよう要請することが重要であると述べました。
<セミナーの概要>
日時:2015年10月3日(土)午後2時~4時30分
会場:クレオ大阪中央
報告:
師岡康子(弁護士、外国人人権法連絡会)
-ヘイトスピーチ規制をめぐる議論の現状~人種差別撤廃施策推進法案を中心に
金尚均(龍谷大学教授)
-ヘイトスピーチ規制に向けた地方自治体、司法の課題
特別報告:文公輝(多民族共生人権教育センター)
-大阪市における被害実態と条例制定をめぐる動向
コーディネーター:郭辰雄(コリアNGOセンター)
主催:人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)
共催: アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)、コリアNGOセンター、RINK、反差別国際運動日本委員会
<参考>
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section3/2015/09/post-124.html
人種差別撤廃施策推進法案、継続審議へ(9月25日)
http://www.toben.or.jp/message/ikensyo/post-412.html
地方公共団体に対して人種差別を目的とする公共施設の利用許可申請に対する適切な措置を講ずることを求める意見書 東京弁護士会(9月8日)
http://antiracismkyoto.wix.com/antiracism
京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会
https://www.facebook.com/NoHateOsaka
いっしょにつくろう!大阪市ヘイトスピーチ規制条例
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken88.html
インターネットを悪用した人権侵害をなくしましょう(法務省)