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外国にルーツをもつ子どもたちの教育支援・連続セミナー・第3回<ベトナム編>を開催しました(9月2日)

 ヒューライツ大阪とおおさかこども多文化センターは、外国ルーツの子どもたちの教育支援の課題に関して、近年増加している国・地域に焦点をあてて3回シリーズのセミナーを開催しており、9月2日(土)に第3回目<ベトナム編>を開きました。
 NPO法人トッカビ代表理事の朴洋幸(パク ヤンヘン)さんと、八尾市立高美南小学校言語介助員のヴー ティ トゥ タォさんを講師に迎えました。学校教員や地域で日本語教育支援の活動に取り組む人たち31人が参加しました。
 
洋幸さんの報告
 NPO法人トッカビは、八尾市内の在日コリアンが集住する地域において在日の子どもたちが民族差別に負けず自分を肯定する教育をめざして1974年に子ども会として発足した。1980年代以降、中国やベトナムなどからのいわゆるニューカマーが増加してきた。八尾市の外国籍者数は1981年に韓国・朝鮮7,118人、中国103人、ベトナム7人などであったのが、2016年には韓国・朝鮮が3,183人に減少した一方、中国1,858人、ベトナム1,239人と大幅に増えている。ベトナム人向けの雑貨店、レストラン、カラオケ店などができている。
トッカビの事務所の近隣にべトナム難民の家族が集住する雇用促進住宅など公営住宅があったことから、地元の小学校教員と連携したベトナム人対象の週一回の子ども会活動を1995年に開始した。これは小学校での民族クラブへと受け継がれている。
子どもたちへの日本語指導などの支援に加えて、2004年からルーツ語(継承語)教室を毎週土曜日に開いている。これは、学校で日本語を習得していく子どもと会話が困難になってきたというベトナム人保護者の相談をきっかけに子どもたちのルーツの言葉であるベトナム語学習教室として始めた事業である。2008年度以降、八尾市から外国人市民相談事業として受託し、ベトナム語による相談に応じている。
トッカビの活動を通して、子どもたちがベトナムをはじめ外国ルーツであることを、なんらかのプラスであると感じ、育ってほしいと願っている。
 
ヴー ティ トゥ タォさんの報告
 2005年に留学で来日し、日本語教育について研究した。2011年から八尾市教育委員会人権教育課の職員となり、ベトナムの子どもが多く通う高美南小学校に言語介助員として派遣されている。また、中学校や大阪府立高校に設けられた「国際教室」でベトナムの子どもたちへの教育支援を行っている。
 ベトナムと日本とでは、学校の設備や運営面でかなり異なっている。たとえば、ベトナムでは1・3・5年生は午前中で、2・4年生は午後という具合にシフト制のある学校が多い。保護者懇談会や家庭訪問がなく、学校からの文書連絡はめったにない。給食のある小学校は少なく、学校にお金をもってきてもよく、校内や周辺の屋台でおやつを買って休み時間に食べることができる。また、先生にお礼として贈り物をすることが多い。
 そのように違いがあることから、ベトナムから編入した子どもや保護者が認識するよう説明しないと様々な問題が起きるかもしれない。
 八尾市に住むベトナムにルーツがある子どもは、①ベトナム戦争後の難民の子どもおよび孫、②片方の親の結婚(再婚)を契機に来日した子ども、③「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で滞在している人の子どもたちの3タイプに大別できる。
 ①の子どもの場合、一般的に学力が高いとはいえない。原因のひとつは日本語の言語能力にある。日常生活は大丈夫だが、しっかりした学習思考言語を持たない子どもが少なくないのである。経済的に不安定な家庭も多く、日本語環境も十分でない。
日本人の子どもからいじめにあうことを警戒して、自分を守るために強いということを見せようとしてトラブルを起こしてしまうこともある。
②の場合は、ベトナムで両親が離婚した後、日本人または日本に永住するベトナム人と再婚した片方の親に日本に呼び寄せられた子どもたちなどである。ベトナムとは異なる社会・言語環境にいきなり置かれることになった困難を乗り越える子たちがいる一方、日本の学校に通うしんどさに苦しむ子もいる。
③のカテゴリーの子どもたちの親は比較的高学歴で、子どもの勉強にも熱心で、家庭環境も安定していることから、子どもたちも勉強を頑張っている。文化や言語の面での苦労はあるもののトラブルは少ない。
 
 ベトナム人保護者が抱える共通の悩みは、子どもとのコミュニケーションをとることだ。子どものベトナム語能力は親の日本語能力と同じくらいであるため、深い内容や気持ちを表す言葉が伝わらない。これは子どもにとっても同じ悩みであろう。
 一方、日本で生まれていても子どもの国籍はベトナムである。難民同士のカップルの子どもならば「無国籍」だ。子どもには「ベトナムは自分の国」という感覚は薄い。かといって、日本も「自分の国」ではない。
 「ルーツ」というのは根という意味だ。人のルーツは見えないけれど、自尊感情につながりとても大切である。アメリカに住むベトナム系アメリカ人の活躍をニュースでよく目にすることがある。日本で暮らすベトナム人については、ほとんどそのような話題がない。目標となるような人が現れてほしい。「どこの国の子どもでもチャンスは同じだ」といった夢や目標を子どもに与えるのが私たち大人の仕事ではないか。
IMG_0012(朴さんとタオさん).JPG                 朴さん(左)とタオ(右)さん