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韓国の多様なひとり親家族支援団体を訪問―そこは当事者が当事者をエンパワーする現場(2019年8月25日~28日)

 2019年8月25日~28日、ヒューライツ大阪の朴君愛職員が、研究協力者として、韓国のひとり親の中でも、未婚母当事者団体、外国ルーツのひとり親家族の当事者団体、支援団体を訪問する機会がありました。
 2018年の人口総調査によると、離婚・死別・未婚(非婚)などによる韓国のひとり親世帯数は、153万9千あまりを数え、全世帯の7.5%を占めます。また「ひとり親家族支援法」に基づく最新のひとり親実態調査(2018)によると、大多数が、離婚によるひとり親家族であり、平均所得は全世帯平均所得の56.5%にしかならず、8割以上が教育・子育て費用の負担感を感じています。また8割近くが養育費を受け取っていません。そして、ひとり親家族に対する偏見や差別意識は社会に根強く存在すると当事者たちは声を揃えて訴えます。
 こうした社会を変えようとして多様な団体が奮闘していますが、その中で今回訪問した4つの団体の活動をインタビューの中から紹介します。

民間支援団体「ラブ・ザ・ワールド」
 ソウルから電車で約1時間かかる水原(スウォン)市にある民間団体「ラブ・ザ・ワールド」を訪問しました。ここは個人が立ち上げた団体で、未婚母・父を含めたひとり親家族など貧困に直面し疎外されている人たちへの支援活動を行っています。設立者で常任理事のソ・チヒョンさんから設立のきっかけや日々の活動を伺いました。
 ソさん夫妻は、養子を育てようとしたことがきっかけとなり、自分で子どもを育てることが叶わなかった未婚母について関心をもちました。そして韓国社会のひとり親家族に対する偏見やその人たちの経済的窮状を目の当たりにします。そこで夫で牧師のパク・テウォンさんと2015年に「ラブ・ザ・ワールド」を発足させ、未婚母などひとり親家族への緊急支援、相談やトレーニング、地域社会とひとり親家族をつなぐ活動を展開しています。ソさんもパクさんも社会福祉士の資格を持っています。
 ソさんは、自分たちは法人格のない小さな民間組織だと謙遜していましたが、行くあてのない妊娠中の未婚母を自分の家に連れてきて一緒に住んだりもしてきました。今は教会の信者さんはじめ全国から支援物品や寄付金が集まり、それを定期的に全国の必要とする700家族に分配しています。また地域の未婚母家族を訪問して、問題がないかを見守っています。未婚母妊婦に協力する近隣の産婦人科の病院とも連携しています。これまで未婚母の妊娠・出産での保証人になり、72人の子どもが生まれたそうです。
 残念ながら、差別的な状況はなかなか変わらず、未婚母はお金があっても家を借りられなかったり、未婚母・父の支援団体であることを看板に出しにくいという現状があります。また個人への支援は必要だと判断すれば、金額の上限を決めないという方針を取っているのですが、そうした支援をしても自立は容易くないという話もありました。そういう困難の中で献身的に活動を進めている様子が伝わってきました。

写真1.jpgのサムネール画像

グローバルひとり親会 -多文化ひとり親家族の当事者組織
 韓国では2000年に入り、国際結婚が急増しますが、その多くは、韓国人男性と東アジア・東南アジア出身の女性との結婚です。こうした国際結婚の家族を支援する多文化家族支援法という法律が2008年に制定されています。そして今、離婚・死別などの事情によって一人で子どもを育てている「多文化ひとり親家族」が増えてきています。
 2015年には当事者組織として「グローバルひとり親会」が発足しました。設立者である中国出身のファン・ソニョンさんは、中国朝鮮族出身であることを生かし、現在、韓国内で中国語と韓国語を教える仕事につきながら、ボランティアで活動を進めています。会員は現在170家族で、13カ国にわたっているそうです。
 今回のインタビューには、ファン代表と日本人女性の会員5人が参加しました。具体的な活動としては、まずは相談活動です。緊急支援が必要な多文化ひとり親家族を探して、危機を脱出するための支援をします。また住んでいる地域ごとに自助グループを作り、お互いの悩みを出し合ったり、支え合あったりします。異国で孤独に子育てをしているために、精神的ストレスを抱える場合も少なくなく、外に出る機会を作ることも大事だといいます。
 さらに韓国社会に対し、多文化ひとり親家族を可視化し、その現状を訴えるために、テレビ出演などメディアを活用しています。そして多文化ひとり親家族に対する政策がなかったり、不十分であるとして、国会議員にも積極的な働きかけをしています。
 ファンさんは、一緒に参加した日本人の会員に対し、自分は日本語がわからないけれど、日本からきた私たちと存分に日本語で話したらいいと声をかけ、私たちは日本語でいろいろ話を交わしました。2018年と2019年の詳しい活動記録を資料として受け取りましたが、これは細かいところまできちんと事務処理をする日本人の会員のおかげだとファンさんは笑って紹介しました。

変化した未来を作る未婚母協会「イントゥリ」
 「イントゥリ」は、2013年に発足した未婚母当事者団体ですが、引っ越してまもないソウルの北村(プクチョン)にある伝統的な韓屋を訪ねました。その辺りは観光地で有名な仁寺洞に近く、家賃の高い地域ですが、キリスト教団体から無償で提供されて使っているとのことでした。
 イントゥリは、造語です。「イン」は人、「トゥリ(tree)」は「木」で、木が成長するように人も成長することをめざすという意味だそうです。代表のチェ・ヒョンスクさんと事務局長のアン・ソヒさんが私たちを迎えてくれました。
 まずイントゥリは、フェミニズムの視点を重視していて、未婚母が「誰かのお母さん」としてではなく、「女性として」幸せに生きることを志向しているという説明がありました。活動当初はプロジェクトをすすめるよりも当事者同士の出会いやいたわりを大事にし、社会の認識改善に力を入れたそうです。
 イントゥリの特徴は、支援事業よりも当事者が意識を変えて自立することが大事と考えており、例えば当事者が当事者をメンターとしてサポートすることに力点を置いているという説明がありました。また、仕事づくりも大事だと考えており、未婚母の自立のためのカフェも運営しています。最近、ビルの一部を無償で使ってほしいという申出があり、コミュニティセンターと新しいカフェの運営を計画しているとのことです。さらに認識改善のために、ミュージカルや映画を自分たちも一緒に作って出演して、自信をつけます。
 現在は企業からの支援も得て、特に満24歳以下の「青少年」未婚母の支援に積極的に取り組んでいます。アン・ソヒさんは、会員として活動をしてきたところ、今は専従スタッフとして、相談事業を担当しています。同じ未婚母として相談にのって、ありがたいと言われるという話を紹介しながら、アンさんは涙ぐんでいました。

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 社団法人韓国未婚母家族協会ー設立10周年を迎えて
 ソウル市の弘大入口駅から10分ほどバスに乗り、ビルの5階にある社団法人韓国未婚母家族協会の事務所を訪問しました。この事務所は、活動の趣旨に賛同するビルのオーナーから格安の家賃で借りているとのことでした。
 出迎えてくれたのは、2代目代表のキム・トギョンさんです。設立は2009年で、今年4月には未婚母家族協会を支えてきた関係団体と個人、政府関係者、支援企業など多数が出席して10周年記念の会を盛大に行うことができたということです。その会には、未婚母が海外に養子を送らざるをえなかった時代を経て、成人になって韓国に戻っている養子の当事者団体の参加もありました。
 10年間の一番の変化は、10年前は寄付をしてくれた人にもらった証拠として未婚母たちの写真を送ろうとしたら、みんな写真を撮らないで、と言ったのに、今はきれいに撮らないと送ったらだめと堂々と自分を出すようになったことだそうです。
 最近は、地方でも未婚母たちが集まりを持ちはじめていて、未婚母家族協会は、光州(クヮンジュ)、天安(チョナン)、プサンにも定期的に訪ねていって自発的な集まりを支援しています。地方をはじめ未婚母当事者や支援者に活動を知らせるために、ウェブサイトのカフェはもちろんのこと、YouTubeやインスタグラムなどを活用して広報に努めています。数年前には英語でサイトとfacebookを開設しましたが、やはり海外養子に送られた人たちからのアクセスが多いとのことです。さらに、こうした情報発信によって、韓国の未婚母家族に対する支援協力をしたいというグローバル企業も出てきているそうです。
 2019年5月10日は、「ひとり親家族の日」を国が公式に制定して初めての日でした。その記念式で、ひとり親家族の権利擁護のために尽くした個人・団体が政府から表彰されました。その中に、闘病中であった初代代表で名誉会長のモク・キョンファさんがいました。神原文子・神戸学院大学教授が主宰する「日韓ひとり親家族研究会」を通じて、私たちはモクさんと2014年春以来、交流を重ねてきました。モクさんはその後容態が急変し、私たちは訃報を知りました。
 家族からも地域社会からも排除がもっと厳しかった時代に、モクさんたち当事者と数少ない支援者によって韓国未婚母家族協会はうぶ声をあげました。その活動の積み重ねにより、堂々と生きる未婚母家族が増え、政策や社会意識を確実に変えてきました。その経験は日本でのひとり親家族支援にも多く示唆するものがあります。

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設立10周年の記念の会パンフ

※今回の記事は、科学研究費助成金事業「ひとり親家族を生活主体とする支援のあり方に関する日韓共同研究」(平成29年度~平成31年度)(研究代表者:神原文子・神戸学院大学教授)の一環で、研究協力者として韓国に出張した報告です。

(朴君愛)