新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、世界中で移動の自由、学ぶ権利などさまざまな人権が制限され、差別や格差の増大に陥る中、ヒューライツ大阪は、教育の場においてもCOVID-19がどのような影響を誰にもたらしたのか、人権の視点から振り返り、今後の人権教育のあり方を考えるため、2回にわたり、標記のテーマでオンラインセミナーを企画しました。
第2回は、民族的マイノリティである在日コリアンの民族教育の現場から2組の報告を受けました。1つ目は自身も民族学校出身で、10数年間、神戸朝鮮高級学校(以下「神戸朝高」)で社会科教員として教鞭をとってきた朴勇黙(パク ヨンムク)さんの報告と、生徒を代表して生徒会副委員長からのメッセージ・ムービーです。2つ目は「誰もが共に生きる埼玉を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会」(以下、「有志の会」)共同代表で、大東文化大学教職課程センター教授である渡辺雅之さんの報告です。この企画の協力者であり、人権教育の専門家である大阪大学人間科学研究科附属未来共創センター特任教授の榎井縁さんがコメンテーターを務めました。
まず、榎井縁さんから、COVID-19は、国籍も民族も関わりなく降りかかってくるが、それに対する施策には「線引き」がされており、教育にかかわっては、例えば、朝鮮学校へのマスクの配布や学生への支援策からの除外をどう考えるのか、そのことに何も感じないことをどう考えるのかという視点で報告を聞いてほしいという話がありました。
以下、報告の要旨を紹介します。
朴さんは、まず朝鮮学校の歴史や教育内容について概要の説明をしました。次にコロナ禍での神戸朝高の2か月以上の休校の下、オンライン授業の充実や教員による学校の施設整備など様々な取り組みを進め、生徒たちの学習環境の確保に努めたことを紹介しました。しかし、それ以前から「高校無償化」から朝鮮学校だけが除外されたり、2018年6月の神戸朝高生の「祖国訪問」修学旅行で関空の税関でお土産が没収される事件(抗議によって後日、本人たちに返る)などを通じて、朝鮮学校が直面している深刻な現状があります。また、無償化除外については、裁判や署名活動など、生徒たちも参加して解決のために闘っていますが、一部の人たちによる暴言を浴びて心を痛める事例が発生する一方、多くの日本人の支援に励まされていることを生徒たちの新聞投書を読みながら紹介しました。近隣の日本の高校との交流も活発に進めています。
次に生徒会役員で3年生の生徒が、メッセージ・ムービーで、コロナ禍によって学校に行けず、大好きな朝鮮舞踊のクラブ活動ができず、半年後となる卒業後への不安を語りながらも、日本人に向けて共生社会を一緒につくろうというメッセージを語りました。
渡辺さんは、ヘイトスピーチが行われた現場の写真を示しながら、「どこにおける不正であっても、あらゆるところの公正への脅威となる」というキング牧師の言葉を引用して、なぜこれを放置してはいけないのかを語りました。
そして2020年3月にさいたま市がマスク配布に際し、埼玉朝鮮学校幼稚部を除外した事件の経過と「有志の会」のさいたま市に対する取組みを説明しました。マスク不支給への当事者や市民からの抗議の声に、さいたま市は支給することを表明します。しかし「有志の会」は、その時に市職員が発した「転売のおそれがあるから」という発言がヘイトスピーチであり、行政の責任は大きいとして謝罪を含め市としての真摯な対応を求めています。今のところ納得のいく解決にはいたっていません。渡辺さんは、ヘイトスピーチの暴力性を説明し、無関心やミーイズムがこれを増幅し、ついにはジェノサイドに行きつきかねないという懸念を示しました。そして、ヘイトスピーチに抗するための対処的アプローチや根本的アプローチの事例も具体的に提示しました。
報告の後、参加者との質疑応答や意見交流を行いました。最後にコーディネーターの榎井さんからの次のコメントでセミナーを締めくくりました。「今日の話ではじめて朝鮮学校に出会った人はラッキーだと思う。誤解やヘイトスピーチのリスクがあるにもかかわらず、メッセージ・ムービーに顔と名前を出して自分の思いを語ってくれた高校生の言葉は重い。ヘイトスピーチに対し黙っていることが、暴力に加担しているかもしれないということを再度考えてほしい。そして、共に生きる社会に向けて、今、自分ができることを考えてほしい」。
◇神戸朝鮮高級学校 URL:https://www.kobe-krhs.net/