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「ミャンマー国軍のビジネスをめぐる日本の課題 ―日本の私たちにできること」を開催しました(6/22)

 ヒューライツ大阪は6月22日、特定非営利活動法人メコン・ウォッチの事務局長の木口由香さんを講師迎えて、オンラインセミナー「ミャンマー国軍のビジネスをめぐる日本の課題 ―日本の私たちにできること」を開催しました。
日本はミャンマーにとって最大の政府開発援助(ODA)供与国であり、多数の日本企業が進出してビジネスを展開するなど、官民ともにミャンマー経済に深くかかわっています。そうしたなか、日本のODAをはじめ公的資金が投入された事業に国軍系企業が関与している事例や、日本企業が国軍系企業と直接取引したり、国軍の収入源となる可能性のある事業に参加していることが明らかになっています。
 メコン・ウォッチは、それらの問題をめぐりクーデターが起きる以前から、日本政府および企業に対して要請や提言を続けてきました。
 木口さんの報告概要は以下のとおりです。
 
はじめに
メコン・ウォッチは、メコン河流域国における開発による人びとの生活への負の影響の予防・緩和のために、「調査研究」「政策提言」「情報発信」を行っているNGOである。クーデター前、ミャンマー少数民族地域で続く国軍の暴力、国軍ビジネスの調査を開始したところだった。
クーデター後は、「#ミャンマー国軍の資金源を断て 連続アクション」を展開し、ミャンマー国軍を利する援助やビジネスの停止を日本政府や企業に要請し続けている。
 
ミャンマー国軍について
ミャンマーの政治囚支援協会の発表によると、6月20日現在、警察・国軍に殺害された人は子どもを含め872名で、不当に拘束されている人は5,033名にのぼっている。
ミャンマー国軍にとっての国防は、国内の「破壊分子」「抵抗勢力」と戦うこと。主流派ビルマ族のエリート組織という認識のもと、自治や独立を求める少数民族に対して、連邦を崩壊させる存在として敵視するとともに、民主化を求める市民に対してもそれを抵抗勢力として排除してきた。国軍内には、イスラム教徒などを排斥する仏教原理主義が浸透していると言われる。
ミャンマーは「民政化」後も国軍とNLD政権の二重の権力構造だった。「民政化」の前に作られた2008年憲法では、安全保障分野の3閣僚の指名権は国軍トップであり、軍事は国会の監視を受けないとされている。
現在の国軍の収入は、誰からも監視を受けない国防予算と、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス・リミテッド(MEHL)とミャンマー経済公社(MEC)という2つの軍系企業のビジネス網で成り立っている。両社は100以上の子会社を持ち、日用品から天然資源までを扱っている。
ミャンマー国軍のビジネスをめぐる問題に関して、国連が「ミャンマーに関する事実調査団」を実施し、2019年に「ミャンマー国軍の経済的利益についての報告書」を公表している。それによると、14の外国企業が国軍関連企業と合弁企業形成し、少なくとも44の外国企業がその他の形態で国軍関連企業とビジネス関係を持つという。日本企業のなかにも、合弁パートナーとして、また国軍の求めに応じて寄付をした企業の名前などがこの報告書にあげられている。
 
国軍とつながる日本の事業とは
キリンホールディングスは、MEHLとの合弁会社としてミャンマー・ブルワリーとマンダレー・ブルワリーを運営し、世界的な批判にさらされた。キリン社はクーデター後、提携解消を発表したが、現在も営業を続けている。ミャンマー国内では不買運動で収益が激減しているという。この事業をめぐり、日本の政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)がM&Aに融資したいきさつがある。
政府開発援助(ODA)の事業としては、311億円の円借款を供与している「バゴー橋建設事業」があげられる。その事業の一環として、横河ブリッジが、国軍系のMECと合弁企業を立ち上げ、橋梁用の鉄骨を製造するものだ。
また、国土交通省が所管する海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が関わる通称Yコンプレックス事業と呼ばれるヤンゴンの一等地での都市開発事業がある。
これは、国防省の所有地に日系企業が、事務所、店舗、高級ホテルなどの入居する大規模複合不動産を建設・運営するというもの。総事業費約377億円の大規模事業で、国際協力銀行(JBIC)が融資に関わっている。2021年開業予定で建設中だったが、クーデターで中断している。年間2億円といわれる事業地の賃料が国防省に支払われたのではとみられている。
その他の事業においても、政府機関の土地や施設を賃貸する事業収入は、国軍に管理される恐れがある。日本のODAの主契約者には国軍系企業はないようだが、サプライチェーンに国軍系企業が入っている可能性はある。そのような問題に関して、「人権侵害から保護する政府の義務」「人権を尊重するという企業の責任」「人権侵害からの救済」を骨子とする、2011年に国連人権理事会が出した「ビジネスと人権に関する指導原則」を、日本政府や企業がしっかり認識し実践する必要がある。(ヒューライツ大阪https://www.hurights.or.jp/japan/aside/ruggie-framework/
 
日本の公的資金とミャンマー
 日本は、ミャンマーに対して約3,000億円の債務救済をしている。そのうち1,274億円は、ジュビリー運動で決まった免除だったが、軍事政権(紛争国)であるミャンマーには本来適用されていなかった条件ながら、ODA債権を放棄したのである。また1,761億円は、ミャンマーの人々に負わせるのは酷な、軍事政権時代の未払いの遅延の罰金だったが、それもたった1年間の民主化進展のモニタリングだけで債務免除をしている。
 また、さらに以前の救済として700億円の債務救済をしている。これは、同額の物品を購入する必要があったが、メコン・ウォッチの調べで、1990年代4年間だけでも50億円の使途不明金があることが判明している。
日本の対ミャンマーODAは、外務省のウェブサイトによると、交換公文ベースで2018年度までに、有償資金協力1兆1,368億円、無償資金協力3,229.62億円、技術協力984.16億円となっている。
ミャンマーの人たちの希望として、たとえば日系企業に働く人たちは、今は日本からの援助や国軍につながる投資を今はやめてほしいと思っている。ビジネス界有志の人たちが行った「ミャンマー日本企業緊急アンケート:ミャンマー人編」を参照いただきたい。(https://note.com/myanmarsurvey
 
これからのミャンマーとの関係
5月21日の記者会見で、茂木外相が今後のODAや日本の投資をめぐる日本の懸念を語った際、「これまで様々な支援を行ってきた国として、また友人として」と、国軍のことを「友人」だと表現したのである。はたして、国軍は日本の「友人」だと言えるのか。
国軍には、長く性暴力を兵器として使用してきた疑いが持たれている。ビルマ国軍部隊がシャン州で1996年から2001年にかけて起こした性暴力事件173件について詳細な報告書「強かんの許可証」(シャン人権基金)が2002年に出されている。被害者は幼い少女も含む625人の女性である。多くの女性は性暴力を公にできない。調査はタイ-ビルマ国境にたどり着いた難民から情報を得たもので、把握できていないケースもあろう。この報告書の数字は実態をはるかに下回るものと思われる(注:実際に報告書にもそう記載されている)。
翻訳がアジア女性資料センターのウェブサイトに掲載されている。読むのが辛い内容だが、読んでいただきたい(http://www.ajwrc.org/doc/LtoR/LtoR_01.html)。
 
公的資金の投入は民間投資の「呼び水」だとされる。そして、ミャンマーは対外投資における「最後のフロンティア」だとしばしば言われている。日本の公的資金を使ったビジネスで、日本企業のためにミャンマーで儲けようとすることの是非を、考える必要がある。ミャンマーという国の、誰のためになる話なのか。援助に関する古典的ともいえる課題がいまあらためて問われている。私たちには、公的資金の行く末を見届ける責任がある。
 クーデター以降、メコン・ウォッチは、国際環境NGO FoE Japan、アーユス仏教国際協力ネットワーク、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)、日本国際ボランティアセンター(JVC)とともに、「#ミャンマー国軍の資金源を断て」をスローガンに、関係省庁や企業に向け、その事業所前やSNS上でアクションを続けている。
 みなさんには、本日、報告した情報を広めていただきたい。過去から現在に至るまでのミャンマーをめぐる問題について忘れないでいただきたい。そして、地元の政治家とミャンマーに対し日本がどうすべきか、ぜひ意見交換をしてみてください。
 
<参照> 
メコン・ウォッチ http://www.mekongwatch.org/