セミナー「ミャンマー(ビルマ)の民主化を求める市民のいま―日本の私たちにできること」を開催しました(6/5)
ミャンマー(ビルマ)で2月1日に起きた軍事クーデター以降、日本各地で市民による民主化支援の取り組みが展開されています。
ヒューライツ大阪は6月5日、日本ビルマ救援センター(BRCJ)代表の中尾恵子さんと在日ミャンマー人の立場からチェリーさん(仮名)を講師に迎えて、オンラインセミナー「ミャンマー(ビルマ)の民主化を求める市民のいま―日本の私たちにできること」を開催しました。参加者は65人でした。報告の概要は以下のとおりです。
中尾恵子さん(日本ビルマ救援センター(BRCJ)代表)の報告
「市民不服従運動(CDM)支援の取り組みと在日ビルマ人支援」
日本ビルマ救援センター(BRCJ)とは
日本ビルマ救援センター(BRCJ)は、1988年のビルマ民主化運動から30年以上にわたり、ビルマ国内外の組織と連携して民主化支援の活動を続けています。1989年、軍事政権が国民の同意なしに国名をミャンマーに変更したことから、私たちはビルマと呼び続け、団体名も「日本ビルマ救援センター」としています。
BRCJは、ビルマ国軍の攻撃で多くの人がタイに避難している事態を受けて、ビルマ難民支援を行ってきました。毎年、タイ国境各地を訪問し、民主活動家や難民自助組織と交流・支援を続けています。
2000年頃から日本へのビルマ人難民申請者の支援も始めました。入管収容施設への面会、仮放免後の生活支援、難民不認定取り消し裁判の資料作成や文書の翻訳などを行ってきました。
CDM支援の取り組み
2021年2月1日に発生した軍事クーデター。即座にヤンゴンに住むビルマ人や日本人の友人たちと連絡をとりあい、民主化支援の取り組みを開始しました。まず、2020年11月のミャンマー総選挙の結果の尊重、および国軍の弾圧停止と民主化促進のために日本政府に最大限の措置を求める声明を出すとともに、他団体と協力して日本政府に外交努力を促す署名を集めました。
2月から3月にかけて大阪や神戸、名古屋で開かれる若い在日ビルマ人によるクーデター抗議集会・デモに参加し、共に抗議の声をあげました。
現地では2月初旬以来、公務員である教員、医療者、銀行員、鉄道員などにより、軍事政権下の職務を拒否して抗議に参加する不服従運動(CDM)が始まりました。このCDMを支えるために海外からの支援が必要であると知り、BRCJは、ISMSP-MMという学者や専門職からなるビルマ人の団体が行っている’One to One CDM Campaignを支援することにしました。カンパを募るとともに、新たに立ち上がった「ミャンマー(ビルマ)の民主化を支援する関西学生ネットワーク」と協力して、コロナ下の緊急事態宣言で中断を余儀なくされながらも京都や大阪の繁華街で街頭募金活動を展開しています。
CDMを続ける公務員に1カ月の給与相当額の約8,000円を3カ月間提供するというものです。すでに1,300人以上が受け取っていますが、そのうちBRCJからの送金は全体の70%にあたります。まだ1,000人が支援を待っている状態です。また、3カ月分ではなくさらに継続した支援が必要となっています。
在日ビルマ人支援
現在、日本からだけでも多くのグループがCDM支援に取り組んでいます。公平に支援が行き渡るよう連邦議会代表委員会(CRPH)が全体を把握しているとのことです。
そうしたなか、日本で抗議活動に取り組んでいる在日ビルマ人のみなさんにも、パスポートや在留資格の更新の心配が及んできています。相談を受けると、難民問題を扱う弁護士につないでいます。そうしたなか、出入国在留管理庁が5月28日に「本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置」を発表しました。在留希望者に在留や就労を認め、難民認定申請者の審査を迅速に行うなどの措置です。
この報道が流れた翌朝、「やさしいにほんご」で読むニュースとしてSNSに投稿する人があらわれ、その日の夕方には別の支援グループがビルマ語に訳して投稿したことで多くのビルマ人がこの情報を目にすることができました。
しかし、この緊急措置は、あくまで一時的であり、在留状況によって処遇が異なっていることから、在留資格や難民認定申請者かどうかを問わず、日本において安全で人間らしい生活を送ることができるような対応にさらに改善する必要があると思います。
日本の私たちのできること
実はクーデター以前の2021年1月中旬から、国軍のカレン州へのおける攻撃が激しくなり、多くの避難民が出ていました。いまも、タイとミャンマーの国境に接するカレン州(ミャンマー側の呼称:カイン州)をはじめ少数民族が暮らす地域で国軍による空爆が行われています。
多くの人びとが手に持つことができるわずかな荷物を抱え、住み慣れた村を出て、タイ国境付近の山岳地帯に身を隠しています。国軍による攻撃から逃れるように安全な場所を求め、歩き続けているのです。人びとの体力と気力は奪われ、非常に厳しい状況が続いています。
One to One CDM Campaignではすでに120万円を緊急医療支援として送りました。ヤンゴンやマンダレーの病院で不足していた医療消耗品の購入と、国軍の攻撃によって負傷した人の治療などに使われています。国境地域の避難民に必要な医療支援は、チン州、カチン州、カヤー州、カレン州、モン州に届けられています。今後、医療用テントを支援する準備をしています。
最後に、日本にいる私たちが支援できることを次のようにまとめて、提案したいと思います。
・まず、寄付の協力をお願いします。支援先は、CDM対象者、緊急医療支援(ビルマ国内、国境地域)、国軍の犠牲となった方々の家族や負傷者、国境地域の食料や生活物資の支援など。
・日本に暮らすビルマ人のみなさんへの支援として、不安を抱えている人たちに寄り添う心のサポートや、仕事がなくなった人への相談など。
・クーデターが起きてからすでに4か月経過し、ニュースで取り上げられることも少なくなるなか、「民主化運動を応援しています」と日本から発信する。
長期化が予想されるビルマのこの事態に、世界中の人びとが関心を持ち続けていただき、最後にはビルマの皆さんに平和な社会が訪れるように願い、微力ながらこれからも支援活動を続けていきます。
チェリーさん(ミャンマー出身・関西在住)の報告
「日本からミャンマー情勢を見つめて」
私の出身地はヤンゴンから約180kmの町で、水産物やお米がたくさんとれるところです。日本には2013年に留学して以来2021年で8年目です。現在、関西の医療関係メーカーで働いています。
ミャンマーはせっかく民主主義になり、経済、医療、教育などいろいろな分野で発展していたのに、突然クーデターが起こるなんで想像もしていなかったです。最初は悔しくて。でも今の時代、こんな不正義に対して、国際社会は簡単に認めないはずで、国連や外国などから圧力をかければ短時間で解決できると思っていました。
でも予想がはずれました。軍が抗議活動を弾圧し、あまりにも非道過ぎる暴力や、子どもたちをはじめ市民達が殺されている情報を毎日見て、落ち込んできました。
家や市場などが放火される事件も起きているのでミャンマーの家族が心配です。コロナも流行しているし、親が高齢なので医療不足も心配しています。不安だらけです。私は、今年いっぱいでミャンマーに戻り、日本で学んだ知識や経験を活かしてビジネスを始めることを計画しました。しかし、こんな事が起きて帰れなくなり、自分の夢、未来が奪われてしまいました。
日本にいる自分に何かできるのかいつも考えています。集会などに参加したり、CDM支援の活動、きょうのようなイベントに参加したり、通訳の手伝いをするなど、ミャンマーで起きていることを日本のみなさんに少しでも知ってもらうように頑張っています。現在日本ではCDM支援や生活支援に関する様々なミャンマー人のグループがあり、グループ内のzoomミーティングやSNSを通じて連絡を取りあっています。
ミャンマーは、2011年から民主主義の国になったと言われたけれど100%は民主化されず、軍の政治への関与を認める憲法によって軍は政治的な影響力を確保してきました。また、少数民族の武装勢力との戦いは70年続いています。今こそ軍を政治から外して正式な国民統一政府になってほしいです。現在、2020年の選挙で選ばれた国会議員などによりCRPH(連邦議会代表委員会)が設立され、NUG(国民統一政府)ができました。NUGは、少数民族組織や市民社会組織の活動家など多様な人たちからなっています。
日本をはじめ世界各国がNUG をミャンマーの正当な政府であることを認め、支持してほしいです。とりわけ日本政府に望むこととして、市民への緊急人道支援以外は、政府開発援助(ODA)や官民の融資・投資などミャンマー国軍を利する支援や協力を停止していただきたいです。
私たちミャンマー人の力だけでは足りないので、日本の市民の皆さんからも力を貸してもらいたいです。CDMで抗議を続けている人たちや、難民として逃げている少数民族への支援が必要かつ重要になっています。