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8月2日(金) 「教育省」
DE (Department of Education)
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所在地:マニラ首都圏パシッグ市
主に話してくれた人:
1.ザイダ・タロシグ・アズクエタ人材開発局局長(Zaida Talosig-Azcueta, Chief, Human Resource Development Service Staff Development Division)
2.ネリッサ・L・ロザリア 人権教育担当(お産を間近に控えてエネルギッシュに、かつユーモラスに話をしてくれた人)
<アリス> トレーニング(研修教育)の担当(教育省次官の代理として最初に少し挨拶した人)
人権教育プログラム担当責任者のフェ・ヒダルゴ次官が、本日挨拶する予定だったが、全国の地方事務所の所長や責任者との会議が入ったので顔を出すことができなくなってしまった。
私たちの国は、植民地支配と戒厳令を経験した。コラソン・アキノさんのパートナーは、戒厳令下で収監されていたが、彼女が大統領になってから人権を推進する強い動きが生まれてきた。自由を求めた闘いの長い歴史があった。現在は民主化されたが、過去の背景から、人権擁護が大きく強調されている。
フィリピンの人権教育はドラマ、歌、ダンスなどをよく使う。PETA(フィリピン民衆教育演劇協会)などがこうした取組みをしている。フィリピン・カルチュラル・センターでも「汚職・腐敗をテーマにしたドラマを上演したりしている。
教育省でも民主化が進められていて、上院議員も経験しているラウル・ロコ長官(大臣)は、何かあったら報告するよう省内で奨励している。
<ザイダ・タロシグ・アズクエタ人材開発局局長>
人権教育のプログラムは、人権委員会と教育省が人権教育に関する協力に向けた合意が形成された1992年にはじまり現在10年目だ。(注:学校における現在の形態での人権教育がいつから始まったかというのは解釈が分かれるところで、90年頃からすでに人権委員会との協力もはじまり教科のなかに人権を統合するカリキュラムがはじまっている)
これから人権教育を促進するファクターについて話をする。一つは憲法に裏づけの条文がある。二つ目は大統領令がある。3つ目に省としての省令がある。定期的に財政的な割り当てがある。政府は通常予算とは別個に人権に関する予算をとっている。人権教育は、教育省の特別プログラムの一つであり、人権委員会(CHR)との協力がある。教科の中に統合する融通のきいたカリキュラムでおこなっている。
1987年制定の憲法の第14条「教育」に関する条文を紹介する。
「セクション3(1) すべての教育機関はカリキュラムの一部として憲法を教えること、
(2)(教育を受ける者は:阿久澤補足)愛国心とナショナリズムを教えられ、愛と人間性、人権の尊重、わが国の歴史的発展の中でナショナル・ヒーローが果たした役割を受け入れるよう教育されなければならない。教育は市民の権利と責任を教え、倫理的精神的価値を強化し、道徳的人格と個人の自律、を発展させ、批判的かつ創造的思考を促し、科学的技術的知識を広め、職業的能率を促進するものでなければならない」
アキノ大統領は、人権を最大の優先課題にするといったが、マルコスによる巨大な人権侵害があり、それがピープルパワーによる「エドサ革命」によって転換された。人々の自由に対する望みが爆発した表現だったといえる。アキノ大統領は87年、人権促進に教育が大事と考え、「人権に対する尊重を最大限にするための教育」というタイトルの大統領令27号を出した。概要は次の通り。
「人権を尊重するためのフォーマル教育とノンフォーマル教育を活用すること。教育省は学校カリキュラムの中にすべてのレベルにおいて、人権教育をどうするか研究をすることが省の役割である。研修と情報を提供する活動を実施する。フィリピンの経験や国際条約、国際的な取り決めや宣言などの文書にも焦点をあてた教材を開発すること。プログラム実施と教材開発ための予算もこの省に含む。公務員委員会は、公務にかかわる人たちに基本的な人権に関する知識の試験を採用や昇進時に実施する」
教育省では87年、大統領令27を受けて、教育省令61を出し、「人権の概念と責任について、学校のすべてのレベルのカリキュラムに入れる」とした。
1999年に「平和と人権の概念をすべての政府機関の教育研修プログラムの中で教える」とする大統領令30を出した。
また、98年から2007年を「フィリピンの人権教育の10年」と定めた。
- <ネリッサ・L・ロザリア 人権教育担当>
95年あたりからの実施状況を紹介する。状況・制度を整えるのに時間が必要だった。人権委員会やパートナーのNGOと協力してきた。人権委員会との合意で以下の人たちを対象にしたプログラムを作った。
- 教育は政府直轄で、教育省の本部(最近の組織改編でDECS「教育文化スポーツ省」から、DE「教育省」に名称変更)はここだが、すべてのリージョン(広域行政地域)に教育省の事務所があり、そこのスーパーバイザーを対象に研修を行っている。スーパーバイザーとは、地域の学校をモニターして質をチェックする役割を担っている。
- 現段階で、スーパーバイザー研修の70%が済んでいる。
- 学校の統括者である校長など管理職レベルの研修は、927人の研修済み。
- 教員は726人済み。数が少ないのは、トレーナーズ・トレーニングという視点から研修を行っており、トレーナー役を果たしうる教員を対象としているからである。また、全教員数は、33万1千人。全員トレーニングするは不可能に近い。
- 保護者対象の研修もある。学校単位であるが、PTAだけではなくコミュニティが入ってPTCA。校長が、保護者やPTCAに対して研修を実施していく。
- 生徒会など若手のトレーニング。それを通じて他の学生にも届くようにする。
- この本部で、教員ではない学校関係者対象のトレーニングを実施。実施数が少ないのでこれからやるべき分野である。
- カリキュラムを書く人たち対象のトレーニングも実施している。
- 人権教育のプログラムを4つに分類できると考えている。一つが政策提言(アドボカシー)と情報提供のプログラム。二つ目が教えることの戦略をたてること。三つ目が教材開発。四つ目が子どもの保護と福祉に関するプログラム。
アドボカシーとは人権の概念について紹介すること。教室でどう人権がかかわるのか、どのように教えるのか提言していく。オリエンテーションセミナーでは人権教育の指導案を集積したものを紹介している。この教材を使うプロセスやメソドロジー(教授法)を教え、人権教育が教えられるようにすることが目的である。
- ライトショップ「書くワークショップ」を行い、現場(フィールド)に使えるかテストをし、その結果、190の教案がある。
- 92年にワークショップを行い、高等教育機関で使う人権教育の教材(レッスンプラン)を開発した。
- 最後の一つは保護者や学生のリーダー向け。子どもの状況を伝え、どのように子どもの虐待・搾取を止めることが出来るのかなど。
- 2003年から在職中の教員研修用の新しいトレーニングのパッケージを作る。
- 同時に教員ではない人たちのためのトレーニング・マニュアルも開発する計画。
- フォーマルな教育活動の中で、人権を統合するという姿勢をとっている。個別の独立した科目としない。
- 特別活動・課外活動は、学校をベースにして行われる。例えば、パレード、人権作文コンテスト、ポスターを書くことなど。
- 地域(コミュニティ)プログラムも学校をベースとしてやる。例えばコミュニティのために資金集め、衛生プロジェクト(クリーン・アンド・グリーン)など。資金集めは基本的な権利を満たすことに使われるようにする。
- フォーマルな教育活動―人権教育の教材集は教案の集積物かつ教え方のガイドである、数学(算数)、英語、体育、保健、音楽、価値教育、ナショナリズム(マカバヤン)など学習の中に人権を統合するやり方をとっている。
- ナショナリズムは、社会、技術、家庭科、保健、音楽、価値を統合した科目である。人々がフィリピン人であるというナショナル・アイデンティティを耕し高めていくために必要である。
- ナショナリズムの考え方の下に人権教育の目的がある。権利と責任を教える。そして子ども、女性、労働者などセクターの権利や政治的・社会的・経済的・文化的権利について教える。
- それ以外に英語、科学、フィリピノ語の科目の中で技術(スキル)的な目的がある。これがどう人権教育と結びついているか、英語で具体例を説明する。
―生徒が英語で手紙を書いて、自分の意見を表明できるというのが、この単元の技術的な目的。これに加え、二つ目が人権教育の目的である。権利侵害について意見を表明できる。手紙の中味で人権侵害のことがふれられる。スキルと人権を高めるという両方に向けて目を向ける。
- ●人権を独立した科目にしないで、既存の科目に人権を統合する利点について
- 一石二鳥である。
- 人権を教えるのにより多くの時間が使える。独立した科目なら1日に40分のみだ。
- より多くの教員が人権に関わることができる。単独なら、人権担当の教員のみ。
- ●人権教育の内容―情報として必ずふれること
- フィリピンの地域(local)や国家レベル、国際的な条約や人権文書。世界人権宣言、フィリピン憲法、フィリピンの子どもの権利に関する法など。
- 地域社会や国内で起こっている出来事にふれる。クラスや学校内、地域社会の具体的な事例。
- ●人権教育の目的について
- 人権と自由についてこれを大切にしようとする気持ちを強めること
- ジェンダー、宗教、民族の違いを受けとめられるようにする
- 平等と友情を大切に認めること。
- コミュニティの仕事や活動に参加することを促進すること
- 人権あるいは子どもの権利を促進したり擁護したりすること。
- 生徒たちが紛争解決のスキルを身につけること
- 権利だけではなく責任についても同様に強調すること
- 人間の尊厳を大切にする態度を形成する。-最後は長期的な目的と言える。
- ●教員が人権教育をやっているかのモニター、評価について
- 管理職やスーパーバイザーが定期的に教室を訪れ、教案のチェックし、科目に統合されているかチェック。実施された人権教育の教案からのフィードバックを得て、改訂やアップデートする際の情報を得る。
- 現在、ユニセフと人権委員会との協力で教案の改定版を作ろうとしている。
- 特別プログラム(人権教育、平和教育などテーマによる教育のこと)の調査もしている。
- ●特別なプログラムについて726人の教員調査
- 79%が学校で人権教育を実施と回答
- 平和教育は74%
- ●教材が入手できるかどうか
- 平和教育74%、人権教育が次に63%。半数を超えているが、教材案をもっと配布しなければいけないことを意味している。
- この教材集の使用頻度 毎日―75%。
- どの教科で使うのが役に立つかー英語、社会、価値教育、フィリピノ語、科学、算数
- ●こうしたプログラムが子どもたちにどういう影響を与えているか
- 批判的思考を持って発展させるのに役だった。
- 効果的な学習を促すことになった。
- 興味、関心を維持したり広げることに役だった。
- 人権、平和、その他のイシューについて気づきや敏感さ(sensibility)を深める効果があった。
- ●これから改善すべき領域
- モジュール、教案をもっと配布すべき
予算の制約のため4万2千ある公立学校すべてに配布できない。私学は希望しても配られない。
- 教材案は、視覚に訴えるものだが、他の資料や教材が補足的に必要
- 人権を教科に統合するための一層の教員トレーニングが必要
- ●12年間のとりくみの達成について
- 人権教育について定期的に予算措置が認められるようになった
―財政に関する法に人権教育が割り当てられているということ
- 人権にかかわる核となるグループが形成された - スーパーバイザー、管理職、学生のリーダーなど
- 人権教育の教案集を初等教育・中等教育を対象に作成した。
―教案があるので教員の重荷を取り去ることができた。教案集がなければ教員は恐らく人権の概念を教えられない。
- 人権の概念が統合の方法を使って教えられるようになった
- エコートレーニング(1回ではなく思い起こしてまた再度行うトレーニング)のセミナーをトレーナーに対しリジョン(地域)レベルで開催した
- いくつかの学校図書館で平和や人権の関心の高まりにより図書資料を多く集めるようになった
- フィリピンのみならずアセアンの学校の教案集・指導ガイドも蓄積されつつある。人権委員会やヒューライツ大阪、その他がスポンサーになって実施されている。
さらに多くの教員に届かせる必要がある。だから2003年から04年にかけて在職教員のトレーニングパッケージを開発しようとしている。政府、スーパーバイザー、現場の教員だけでなく人権委員会やヒューライツ大阪と連携して考えている。
(質問)意欲的で素晴らしいプログラムの一方で、どんな困難さがあるのか
人権教育推進を妨げるような要因は?
(答)在職教員の研修が限られていることが問題。スーパーバイザーの研修を通じて教員に伝えてほしいが、もっと研修をしてほしいという声がある。だから教案集を作成した。教員にとってバイブルのようなもの。
細かく言うと、教員はregionレベルではなく国レベルのトレーニングに参加したいと。スーパーバイザーを介したものではなく直接受けたいということ。
教えなければならない最低限度のことを定めた方針があり、科学なら科学だけを教えればよかったが、法の裏付けをえて、人権の概念もいっしょに教えなければならなくなった。ある意味では義務になったから研修のニーズがある。
もう一つの不満は、教案だけでは教えられないため、世界人権宣言や子どもの権利条約の資料、視聴覚教材が足りないという声がある。地域、地元のものをできるだけ使ってほしいと返事し、多くの教員は想像力を発揮して独自の副教材を作っている。他にも子どもの権利カードの教材では、ユニセフによる子どもの権利カードがあるほか、人権委員会が作ったもので、世界人権宣言や子どもの権利条約をシンプルにしたものなども教材になる。
もう一つは、人権を科目に統合することの重要性を充分に認識できない状況に対しては人権教育の必要性を説明しつづけることと情報を提供していくことが必要。賛同できない理由は、学校が大変でこれ以上負担が増えるのは困るという意識。人権を教えることが子どもにどれだけいい意味を持つかを言う。また教員は自分の権利に気づいたりする。
具体例をあげる。ある教員が人権教育を教えると共産主義者の活動家になるかもしれないといやがっていた。人権教育は、活動家養成ではなく人間の尊厳と基本的権利を学ぶことであり、あなたの考えは誤解だと説明した。子どもは自分の権利を学んで、学校に行くことが権利であると気づく。そのことは結果的に学校での教員の状況を改善することになると説明した。
(質問)英語やフィリピン語に人権を統合するのは理解できるが理科や数学の例を知りたい。
(答)科学の教案集に一つ例がある。環境の保護、自然の保存がテーマ。自然を保護する理由は、私たちに食べ物や衣服など基本的権利を提供してくれるからと説明する。数学は技術的な科目なので統合が難しいが、平等の概念をそこに入れて教えている教員もいる。フィリピン大学やフィリピン教育大学(Normal University)が教案を作って実験もしている。資源の平等の分配をとりあげて議論したりする。
小学校1年で天気を学ぶ授業があるが、子どもも天気に関する情報を集める権利があることを学ぶ。
(意見)数学に人権を統合するのが難しいというところで笑った人がいたが、日本でも教育を受けられず計算ができないため買物に一万円札しか出せない人がいる。経済や数学など生活に密着した知識は、人権に深く関連しているはず。
(質問)人権教育の実施に対し法的強制力が個人の教員や学校に対してあるのか?配布した資料にある「達成度」の基準は?人権教育との関連は?
(答)罰則はない。しないという人たちに対し繰り返しニーズと省令や人権の概念と内容を説明する。これもあってスーパーバイザーの研修を行い、スーパーバイザーが学校での実施をモニターし、教員の成績をつけるている。一方、子どもは人権教育の試験がある。社会では人権が試験の大きな割合を占める。国レベルの達成度テスト(National Elementary (Secondary) Achievement Test)でも人権のテストが出題されるので、出来ないと成績が悪くなるという効果がある。
配布した資料の「達成度」の割り出しなどは、詳しくないので答えられない。確かにいえるのは、達成度は貧困という経済的ファクターが関係する。フィリピンは義務教育は無償だが、金銭的負担により学年の途中からドロップアウトして農業を手伝ったり、家族のために働くことがよくある。
(質問)フィリピンの識字率はどれくらいか?
(答)計画統計局の職員ではないので今正確な数字はわからない。かつてフィリピンは東南アジアで最も識字率が高いといわれていた。方言と識字率の関係は複雑である。フィリピンにはたくさんの地方語がある。(cf.『UNDP人間開発報告書』によると、2000年の若年層識字率は98.7%)
(質問)識字率を聞いたのは、貧困のために学校に行けない人が日本より多いと思うがその人たちに対するとりくみを聞きたかったからだ。
(答)一つの大きな人権侵害であることは理解する。入学については、初等教育と中等教育が無償であれば十分であろう。しかし日常に必要なお金が生じる。教育省の責任だけではなく親の責任もある、しかし家に生活に足りる収入が無い場合もある。貧困はフィリピンだけではなく東南アジアに共通する深刻かつ重要な問題である。保護者のフォーラムを持っていて、子どもの権利や基本的なニーズ、特に衣食住が非常に大事だと繰り返し親たちに説明している。貧しいためにその手段が無い親がいるが、食料と学校に通わせることは努力してほしいと伝えている。途中で学校に来なくなる子がたくさんいて状況は深刻だと認識している。
(質問)人権委員会も女性の委員長で、教育省といい女性が活躍している。人権教育と関連があるのか。
(答)そのとおりだと思う。ジェンダー・エンパワメントためのプログラムとして、別々にジェンダーと開発のプログラムをもって女性労働者や従業員にエンパワーしている。男性と同じように国家建設に参加し、家庭でも機会を分け合い同じように子どもを育てる。政治やテレビもリードしている女性がたくさんいる。大統領は女性である。
(質問)校長の意識は積極的なのか、あるいは法律や省令だからという意識か?校長やスーパーバイザーに具体的にはどういうプログラムをしているのか?
(答)スーパーバイザーたちは開けている。かつて戒厳令の時は人権を教えたくても、隠れたカリキュラムのようにして教えるしかなかった。現在は法に規定されて、部下はそれをやろうと思っているし、人権教育を教えるときの制約は特にない。
内容のことだが、強調したいのは概念である。人権の概念を学級にどう関連付けていくのかが重要である。次にプロセスや方法である。ドラマや演劇など多様な方法があり、これらを踏まえてカリキュラムを書く研修もしている。なんといっても、現場でいちばん必要とされるのは使える教材である。また、行動計画を立案する研修もしている。現場や事務所に戻ったとき、実施すべき計画を作る研修をし、実際にトレーニングの後に実施しているかどうか中央の教育省がモニターするという関係になっている。
子どもの権利のセッションもやっている。子どもは私たちにとって最大の利害関係者(stakeholder)であるからだ。どんな問題があるのか、どう救済されるのか、政府の政策や虐待をどこに報告するのかを研修する。